参加学生体験談

2018年度 NJE3

シベリア学実習

久米 啓太

Hokkaido University

Graduate School of Engineering
Master Course 2
Period of time: 1 July, 2018 ~ 9 July, 2018
Host University: Irkutsk State University/Far Eastern Federal University
平成30年度基礎科目

7月1日に新千歳空港を出発し、羽田・成田空港を経由したのちにイルクーツク国際空港へと向かった。現地ホテルに到着したのは深夜1時頃であったが、到着10分前にワールドカップでロシアがスペインに勝利していたため、ホテルのバーは熱気に包まれていた。酔ったロシア人が我々日本人にも声をかけてきてくださったため、一緒に勝利を祝した。思わぬ形での現地人との交流を深める機会だった。

翌2日から4日まではイルクーツクに滞在した。2日は、まずシベリア地域の先住民に関する講義を受けた後にウズベキスタン料理屋に行った。実習前までの私にとって、ロシアという国はヨーロッパの色が強いイメージであったが、モンゴルや中央アジアの国々の影響も強く受けていることを知った。この日の午後からは非常に強い雷雨に見舞われ、早々にホテルへ戻った。ホテルに戻ると、ロビーの電気がついておらず、停電が起きたことを知った。外に出てみると信号機が消えており、ホテル前の小さな道でも大渋滞が起きていた。いつ復旧するかもわからない状況で待ち続けるのは非常に不安であった。私はこれまで停電をほとんど経験したことが無かったし、日本の場合大きな建物には非常用電源が必ず備え付けられているため、仮に停電が起きても今回のような事態にはならないと思った。日本の災害に対する備えがいかに充実しているか、また、日々の快適な暮らしがいかに電気によって支えられているのかを肌で感じることができる貴重な経験となった。

3日は、大学にてバイカル湖・バイカル地域の生物多様性や東アジア・極東地域の環境対策の協力関係について講義を受けた。最近のバイカル湖は、製紙工場や発電所の工場排水の流入の影響を受けており、水質が徐々に悪化していると学んだ。また、それによって、中には絶滅の危機に瀕している固有種もいると伺った。私の専攻は環境工学であり、水処理の研究をしている身として地域の発展と環境問題の密接な関わりを感じると共に、水循環における適切なマネジメントの必要性を再確認した。

4日はイルクーツク市内を離れ、木造建築の村「タリツィ」とバイカル湖を訪問した。タリツィでは、ロシアの伝統的な木造建築に触れることができた。シベリア地域は木材資源が豊富であるため、元々は木製の家が多かったものの、火災による被害のリスクから現在のような石畳の家がメインになったと学んだ。森林に恵まれているという環境において日本とシベリアは似ているが、日本では現代でも木造建築が多く見られるという点では大きな差があるように感じた。似たような環境にあっても、国民性や価値観によって選択する行動に違いがあると感じた。バイカル湖では、昼食やバイカル湖の固有種「オオムリ」に舌鼓を打った後、バイカル湖・科学アカデミー湖水学研究所博物館を訪れた。博物館ではバイカル湖の固有種が生きた状態で展示されており、昨日標本で見た生物が生きている姿を実際に見ることができた。最もインパクトのあった固有種はヨコエビである。他の地域では1センチにも満たない小さな生き物だが、バイカル湖の固有種はその数倍も大きく、まるで全く違う生き物の様だった。現在は湖周辺の環境対策も少しずつ進んでいるとのことですが、固有種が数多く存在するこの湖を、これからもずっと維持して欲しいと心から思った。

イルクーツク国立大学の教室
タリツィの家
バイカル湖

7月4日の深夜便にてイルクーツクからウラジオストクへ移動した。
5日は極東連邦大学の見学を行った。APECが開催された大学ということで、非常にきれいなホテルが沢山あった。北海道大学とは異なり、訪問者向けの施設が充実しているように感じた。また、キャンパスは最近整備されたということで、先進的なデザインの建物が多く見られた。イルクーツク国立大学の建物は伝統的な石畳のものであったため、極東連邦大学の建物には対照的な印象を抱いた。建物の見学を済ませた後、ロシアの学生との茶話会をしました。ロシアの学生は日本にも馴染みがあり、ロシア・日本それぞれの話題で盛り上がることができた。夏からは同プログラムで日本に来るとのことなので、今度は札幌で再開するのが楽しみである。

極東連邦大学のメインの建物

ウラジオストク2日目である6日は、午前中に2つの講義を受けた後に極東連邦大学が所有する博物館でのエクスカーションや市内の市場の見学を行った。
講義では、先住民出身の先生から極東地域の先住民文化の概要について学んだ後、先住民の経済がどのような精神文化と結びつくかを学びんだ。先住民が使用していた道具の紹介で、傾斜のある雪の上でもスキーで前に進めるよう板の裏側に毛皮を貼り付けて使用していたという話が興味深かった。

7日は昨日に引き続き、博物館のエクスカーションがメインだった。博物館内で保存している貴重な本や生活家具だけでなく、西から東まで様々な地域でサンプリングされた数々の鉱物についても解説して頂いた。また、世界中の珍しい生物の展示も見学でき、極東連邦大学が博物館に力を入れているということを肌で感じることができた。
極東連邦大学の博物館はスペースこそ北大のものに比べて狭いものの、一つの空間に沢山の生物が展示してあり、非常に見応えがあった。市街地の中心部に近い立地であったため、私たちだけでなく中国人観光客も多く押し寄せていた。
極東連邦大学の博物館の見学を通して、展示物の解説に多言語本訳を付けるべきだと思った。私たちは博物館のスタッフに展示物の解説をして頂いたため、展示物から多くのことを学ぶことができたが、私が見かけた中国人観光客は展示物にどのような背景や意味があるのか全くわかっていない様子だった。近年のウラジオストクは中国・韓国から多くの観光客が来ているという話を、滞在中に伺った。また、博物館が市街地にあるということは対外向けの施設であると思う。より多くの人にロシアの歴史・文化および極東連邦大学について学んでもらうためには、多言語対応は必須だと思った。
実習最終日はコーディネーターの方にウラジオストクを案内して頂いた。市内には、日本とゆかりのある場所も多くあり、今まで知らなかったウラジオストクの一面を知ることができた。日本の学校ではロシアとの歴史的な関わりについては深く学ばないため、非常に興味深い内容だった。

先住民が利用した道具
ウラジオストク市内の建物

10日間の実習を通じて、ロシアの文化・歴史を学ぶことができただけでなく、あらゆる面での日本との違いについても知ることができた。ロシアは日本と非常に近い国であるにも関わらず、行ったことのある人の少なさからか、多くの人にとって“よくわからない”国であると思う。今回の実習は、そのような今まで“近くて遠い国”であったロシアに実際に訪問し、日本では得られないような沢山の学びを得ることができる大変貴重な機会だった。