参加学生体験談

2024年度 NJE3

2024年度アラスカ実習<アラスカ大学フェアバンクス校>

坂井 恭佳

北海道大学大学院農学院  動物生態学研究室 修士2年

Period: 11th~22nd August 2024  

8月のアラスカ・フェアバンクスは、夜の10時くらいまで日が出ていて明るいにも関わらず、気温は昼間で12~20℃と、少し肌寒いほどで、過ごしやすい気候でした。その長い日長を活かして、私たちは朝から夜まで、沢山のことを学び、体験することができました。このアラスカ実習では、北大とアラスカ大学フェアバンクス校 (UAF) の先生方から、北極圏の環境、気候、生態系、歴史、地政学、先住民族など、多岐に渡るテーマの講義を受けながら、野外研究フィールドや国立公園、博物館、先住民族関連施設などを実際に訪れ、体験して学ぶことができます。私は、現在動物生態学を専攻し、北海道の魚類について研究していますが、北海道とは違った場所の生態系にも触れてみたい、という憧れと、今後のキャリアのためにも、幅広く他の分野の勉強もしてみたい、という意欲から、OGGsプログラムとアラスカ実習が最適であると感じ、受講/参加しました。また、学部生時代にはコロナ禍で思うように海外経験ができなかったため、学生時代最後の海外経験として、現地での生活や、他の学生および現地の人々とのコミュニケーションを通して、自分の課題解決力、英語力、リーダーシップ力などを試し、向上させたい、という思いもありました。

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※写真1 アラスカ航空の機体 ロゴマークはアラスカ先住民族イヌイットの男性の顔

講義は、UAFキャンパスの北西に位置する、Akasofu Buildingで行われました。この建物は、日本出身で、アラスカ大学でオーロラの研究をされている赤祖父俊一名誉教授のお名前が付けられており、International Arctic Research Center (IARC)の拠点となっています。IARCは本実習の主要な協力先であり、文系理系や、基礎/応用、米国内外の隔たりなく、様々な分野の研究者が所属する学際的、国際的な研究機関です。北大からの実習参加学生と引率教員、IARCの教員と学生数名、という十数人での小規模な講義であったため、講話後のQ&Aセッションでの議論が非常に盛り上がりました。

私にとって最も印象的であった講義は、IARCのLovecraft教授によるアラスカと北極圏の先住民族の講義です。アラスカを中心とした米国の歴史観や、アラスカ先住民族による企業経営、現在のアラスカの人々の政治への関わり方など、私にとって全く新しい知識を得ることができました。また、私は、アメリカ国民は政治への参画意識が高く、政治の意思決定に関わる国内の歴史や課題などを理解している、と考えていたので、講話後に、「アメリカの義務教育の中で、こういった先住民族の歴史はどの程度扱われますか?」と質問したところ、Lovecraft教授は、「全くもって扱われていないんです。この講義で取り上げたような内容は、ようやくアラスカ大学では必修になったが、依然として大学院で専門的に学ぶレベルです。」とご回答いただきました。この議論を通して、私のこれまでのアメリカという国への考え方が変わったことに加えて、私たちがこの実習で学んでいることは、ここアラスカでしか学べない、とても貴重なものである、ということを認識しました。

※写真2 Akasofu Buildingでの授業風景 外の景色が最高

本実習スケジュールの半分以上は、現地訪問/体験プログラムで構成されていました。その一つが、UAFの野外研究フィールドでの永久凍土調査です。IARC教員のレクチャーを受けながら、永久凍土上の森林を歩き、地面に長い棒を突き刺して永久凍土の深さを調べます。フィールドには北海道の森林とどこか似ている植生と、これまで全く見たことの無い北方の植生が永久凍土の上にモザイク状に混在しており、その中で植物をかき分け、スポンジのような地面に足を取られながら進んでいく最中、私はずっとアラスカの自然に圧倒されていました。永久凍土林を歩く経験は、北方圏の現地に行かないとできない経験です。それが得られただけでも、はるばるアラスカまで来た甲斐があったな、と感じました。また、アラスカでは、夏に蚊が大量発生します。アラスカの蚊は、ヘラジカなどを刺して吸血するため非常に大きく、私も数カ所刺されましたが5日間ほど赤く腫れてかゆみがありました、これも現地でしかできない経験ですね。

デナリ国立公園訪問も忘れられない思い出です。北米大陸最高峰のデナリ山を囲む公園は、日本の四国よりも面積が広く、人間の手が入らない自然が残っています。あいにくの悪天候のため、デナリ山の頂上は、遠くから一度望んだだけでしたが、公園内のトレッキングやビジターセンターでの映像上映と展示などで、デナリの自然、生き物、四季などを総合的に学ぶことができました。公園周辺の移動中は、車窓から常に北極域のまばらな森林とそびえたつ山々を見ることができます。デナリ訪問は一泊二日であり、夜はDenali Chino Nature Center (DCNC)に宿泊しました。DCNCは日本出身の茅野夫妻が一から手作りしたロッジで、自家発電や雨水利用など、アラスカの自然の中での暮らしを体験することができます。茅野夫妻のこれまでの歩みやデナリの自然のお話を聞くうちに、大学の勉強では学べない生き方や価値観を見いだせたように思います。

※写真3 永久凍土調査の様子 アラスカ着の翌日にハードなフィールドワークで北大一行はヘトヘト

日々の生活について、私たちはSkarland Hallという、UAFキャンパス内の短期滞在者向けの寮に滞在しました。学生は2人一部屋で、洗面台、トイレ、シャワーは男女別共用です。参加前は、日本のような水回りのきれいさは期待できない、と覚悟していましたが、掃除が行き届いていて十分清潔で使いやすかったです。一階には共用キッチンがあります。UAFキャンパスから街中までが遠く、近くにレストランなどもないため、夕食はこのキッチンで各自自炊をしました。キッチンで料理をしながら、食べながら、片付けながら他の参加学生とお喋りする、有意義な時間を過ごしました。生活中、洗剤がなくなった、インターネットが繋がらない、ゴミ捨て場が分からない、といった小さな困りごとが毎日多数発生しましたが、学生同士協力して乗り越えることができました。スケジュールの後半では、学生にグループワークが課されましたが、こういった日常生活でのコミュニケーションが課題遂行のために大いに役立ったと思います。

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※写真4 キャンパス内のカフェテリア”Dine 49”での朝食 寮のチェックイン時に朝食無料バウチャーが配布された コーヒーも飲める

学生同士のコミュニケーションだけでなく、現地の方々との交流の機会も多く持つことができました。空港からの送迎やスーパーでの買い物などをサポートしてくれたUAFの学生さんには非常にお世話になりました。日本の文化に興味がある方だったので、アメリカと日本、お互いの文化の話で盛り上がりました。また、寮内のラウンジで、同じ寮に滞在していた米国空軍の軍人の方と仲良くなって一緒にビリヤードをしたり、朝食会場で出会った旅行中のご夫妻とアラスカでの経験を共有したり、偶発的な出会いも沢山ありました。参加前は、「自分の英語力を試し、向上させるために、現地の人と沢山会話しよう」と考えていましたが、いつの間にか英語を話すことが目的ではなく、現地の人との交流を楽しむこと、楽しくお喋りして一緒に時を過ごすことを目的としていろんな人に話しかけるようになっていきました。

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※写真5 サポート学生さんに連れて行ってもらったフェアバンクスのスーパーにて サーモンだけでも3種類

フェアバンクス滞在は12日間、渡航日を含めても2週間と非常に短い実習でしたが、休みなく学び、現地に出向き、課題に取り組んでいたため、非常に充実した実習となりました。私は、この実習を通して、アラスカや北極圏が日本とどう異なるか、日本とどう関連するか、ということを発見できました。気候変動の影響を大きく受ける北極圏では、北極海航路の開拓や資源開発など、日本もステークスホルダーとなるような事案が増加しています。アラスカ/北極圏と協働する上では、日本とは大きく異なる、民族、地下資源、生態系、政治的背景などの理解が必要です。特に環境変動に伴う生態系変動や、永久凍土融解または異常高潮などによる遠隔地集落移転などの問題については、日本だけでなく国際的な協力が必要な段階にあります。このような状況において、アラスカをはじめとする北極圏についての知識、理解が現地での体験と共に得られたことは非常に有意義なことだと感じました。

恐らく、参加した学生ごとに専門分野や出身などが異なっていたため、各個人によって得られたもの、感想は大きく異なると思います。また、今回の実習は、OGGsプログラム/NJE3コースとして初めてのアラスカ行きであったため、プログラム内容は本体験談からは大きく更新される可能性があります。いずれにせよ、アラスカには、現地でしか得ることができないものが沢山あり、訪れた人に対して必ず何らかの新たな学びが提供されます。私も、この体験談には書ききれないほどの、自分自身の期待以上の成果を得られたと感じています。

この実習では、アラスカ・フェアバンクス現地、IARC/UAFの方々、北大の引率の先生方、OGGs/NJE3オフィスの方々、他の参加学生など、多くの人のご協力・ご尽力のもと、無事に完遂することができました。この場を借りてお礼申し上げます。

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※写真6 デナリ国立公園